【ベビカム シニア・アドバイザー】 埼玉医大総合医療センター新生児科 教授・小児科医

“いのち”の行方 第4回 「待つ」ということ

  • 2015-06-29 17:05
  • 一般公開
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冬らしくない冬が過ぎ、春もつかの間。地球に温暖化に対するさまざまな警告が声高に叫ばれていますが、はたして、子どもたちが生きていく次の世代の地球はどんな姿になっているのでしょうか。次世代に「つけ」をこれ以上残さないために、私たちにできることは限られていますが、それでもなお、考えなくてはならないことでしょう。

ことばにならないことばの大切さ

さて、前回は「ことば」とコミュニケーションについてお話しました。乳幼児期においては、「ことばにならないことば」、ボディランゲージや顔の表情、しぐさなど、非言語的な表現こそ大切だと思います。そう思って、改めて子どもたちをみて下さい。実にさまざまな表現をしているものですし、それを周囲の大人たちが上手に汲み取ってあげることで、どれほどの子どもが心の安心を得られることでしょうか。

また、「ことば」を巧みに操ることができる大人にとっても、非言語的な表現を受け止めることが、時に思わぬ発見につながることもあるのではないかと思います。

「ことば」は私たちにとって、大変重要なツールです。生まれて1年もすると、子どもたちは喃語(いわゆる「赤ちゃんことば」)を発して、盛んに何事かを「はなす」ようになりますし、次第に「ママ」や「マンマ」、「ブーブー」などと、意味のある単語を話すようになります。2歳になる頃には、単に単語をしゃべるだけではなく、「アッチ、イク」とか、「ブーブー、キタ」など、いわゆる「二語文」をしゃべるようになり、その後、次第に語彙が増え、会話もつながっていくようになります。ただし、これはあくまでも「標準的」なお話。「ことば」の発達は子どもによってかなりの幅があります。同じ3歳でも、キチンと名前を話して挨拶ができる子もいれば、ほとんど片言に近いことしか話せない子もいます。「ことば」ほど「正常」とされる幅の広いものはないのではないかと思います。周囲の大人たちは、ついつい子どもを比べてしまい、「ことば」が遅いことを気にしてしまいますが、では、なぜ「ことば」が遅いのか、と考えたことがありますか? これは単純なようでいて、非常に難しいことです。

たとえば、兄弟が多かったり、祖父母と同居しているなど、多くの家族に囲まれている子は「ことば」を覚えるのが早いとも言われますが、赤ちゃんにして見れば、自分が何も言わなくても、指し示すだけでお兄ちゃんが何でもやってくれるため、しゃべる必要がなくて、かえってことばがでてこない…ということもありますね。一方、日中はお母さんと二人っきりで、ほとんど会話がない、なんていうことも今では少なくありませんが、「ことば」が遅いかと言えば、むしろ一日中おしゃべりしっぱなしの子どももいます。子育てに際して、周囲の大人たちがもっとも要求されるのは実は「待つ」ということなのではないでしょうか。

育児は、「自分」も育てることに…

最近は、世の中万事「効率」や「スピード」ばかりが追い求められる風潮にあって、子育てにもどこか「余裕」が失われているように思います。しかし、子どもたちが育っていくには、それ相応の「時間」が必要ですし、また、その「時間」は子ども一人ひとり、違った流れを持っているのではないでしょうか。子どもを育てる…ということは、そんな一人ひとりの「時間」の流れに上手にあわせて、何よりも「待って」あげるということなのかもしれません。「育児」とは子どものみならず、いや、子どもよりもむしろ、「自分」を育てることなのかも知れませんね。

(2007.05)
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