【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

妊娠後半期の超音波検査のためにおこる心配ごと その2

  • 2015-06-29 15:12
  • 一般公開
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昨年12月号で、妊娠後半期の超音波検査のためにおこる心配ごと「羊水の量」「胎児の発達」について、どれぐらい心配なのかお話ししました。今号はその続き、羊水の量、胎児の発達に異常があったらどうするかについてです。

羊水の量が少ない

羊水の量が少ないケースは全分娩中の頻度は1~2%です。

「胎児に異常はないのか?」

まず、「羊水の産生が少ない」ことが考えられます。この時期の羊水の大部分は胎児のオシッコです。その他は肺からの分泌液でそれは十数%と言われています。従って尿の産生が少ないと羊水が少なくなります。しかし尿の産生を少なくする腎臓の奇形・尿の通り道の狭窄や閉塞のような奇形は、妊娠初期からの超音波検査で判りますし、その頻度はおよそ9・1%ぐらいと少ないものなのです。

つぎに「羊水の吸収が多い」場合です。胎児は羊水を飲み込んでいて、消化管(胃・小腸・大腸)から吸収されます。この量が多ければ羊水は少なくなります。しかしそのような胎児の異常はありません。結局、羊水の量が少ない原因として問題になるのは次のことです。

羊水の産生と吸収のバランスがとれない。つまり産生より吸収が多い時に羊水は減少することになります。胎盤機能の低下する可能性のある予定日を超過した妊娠の時、羊水量が少なくなると言われています。あるいは、胎児の腎臓の血流量が減少するような状態(元気がない状態)です。

対処法は、「横臥する(横向きに寝る)」ことくらいです。横臥すると内臓の血流量は増加すると言われます。子宮・胎盤の血流量が増加することは、効果があるとは言えないまでもマイナスにはならないと思われます。酸素や栄養の胎児への供給も多くなるので胎児を元気づけることにもなるでしょう。ちゃんとした臨床実験で証明されているわけではありませんが、羊水の量が増加する傾向はあるようです。「安静ではなく横臥」です。

羊水の量が多い

羊水の量が多いケースは、全分娩の9・4~1・5%にみられます。

「胎児に異常はあるのか?」

羊水の産生が多いか、吸収が少ないことのどちらかですが、胎児の何らかの奇形が存在することが考えられます。従って、超音波断層法などで検査をする必要はありますが、奇形の頻度は13%で、20%は多胎や妊婦の糖尿病によるもの、67%は胎児にも妊婦にも羊水過多になるハッキリとした原因は認められず、生まれた子どもにも異常は認められないのです。むやみに心配することもないでしょう。

「妊娠・分娩に影響するのか?」。早産の可能性が少し高いこと以外は、大きな子宮による圧迫のために呼吸が苦しい、下肢の浮腫などです。

胎児発育遅延(胎児の発育の遅れ)

胎児発育の標準曲線の10パーセンタイル以下、あるいは1・5SD以下のものを言います。

「発育の遅れの原因はなにか?」

胎児の染色体の異常、奇形、感染症(トキソプラスマ・サイトメガロヴィルス・風疹など)や妊婦の喫煙、妊娠中毒症、多胎妊娠、糖尿病、心疾患、腎疾患などが原因となるものが多いのですが、明らかな原因のわからないものもあります。

「胎児への影響はあるのか?」については、当然のことですが原因によって影響の出方は変わってきます。産科の医者は子宮内胎児死亡・胎児仮死・新生児仮死・新生児死亡に注意します。妊娠・分娩・新生児期を通して、子どもがいい状態(well-being)にあるかどうかに注意をし続けます。具体的には、以下です。

(a)NST(non stress test)。
モニター(分娩監視装置)を40分ぐらいつけて胎児の心拍曲線の状態を見る
(b)羊水量の過多・過少を診る。
超音波断層法で羊水ポケットあるいはAFI(羊水指数)により判断する。
(c)胎動の状態を観察する。
超音波断層法で胸郭・四肢・頭や躯幹の動きを見る。妊婦の自覚する胎動の数により判断する方法もある。
(d)BPPS(biophysical profiling score)。
NST、羊水量、胎動、呼吸様運動、筋緊張の5項目について採点して判断する。
(e)胎児の血流の状態を調べる。
超音波ドップラー法で臍帯動脈などの血流の状態を指数を計算して評価する。

これらが臨床的に比較的良く使われる検査方法ですが、その評価の結果「どのような対応策を選択するか、あるいは出来るか(例えば、高次の医療機関に紹介または搬送、誘発または帝王切開によって分娩させる、厳重監視しながら自然の経過を待つなど)」によって、どの検査を実施するかの選択も変わってきます。

超音波検査で異常を伝えられたら?

お腹の上から手で触り、聴診器で胎児の心音を聴くことしかできなかった20~30年前と違い、胎児についてのいろいろな情報が得られるようになりました。

もし超音波検査の所見で、「羊水がちょっと少ない」と言われたら、「それは心配なごとなのか、なぜ心配なのか、自分はどうすることが出来るのか」を尋ねてください。それが、あなたの赤ちゃんが、できるだけ良い条件のもとで生まれてくるために必要なことなのです。

(2001.06)
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