【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

妊娠・出産のリスクと産科医療の問題点-2

  • 2015-06-29 14:00
  • 一般公開
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減少した周産期死亡

前回お話した妊産婦死亡と同様に、周産期死亡(妊娠22週以後の死産と出生後一週未満の新生児死亡)も最近の40年の間におよそ7分の1に減りました。出生189人に1人という数字は(表1)、主要外国と比較すると(表2)、日本より少ないのはスウェーデンだけで、我が国の出産における安全性の高さがわかります。緊急の場合に問題があるといわれる診療所・助産院・自宅などの分娩が46.2%を占め、常勤の産婦人科医の数が2人以下(平均2.58人)の施設が38%もあるにもかかわらず、です。

それでも、赤ちゃんの死亡は母親の死亡に比べれば86倍も多いのです。

先天性の原因によるもの

赤ちゃんの死亡の原因を見てみると、その14.8%(878例)が奇形その他の先天的な異常によるものです。超音波断層法などによる胎児診断ができるようになり、胎児手術や出産直後の手術・治療により助けることができるようになりつつありますが、まだまだ専門家達が努力中というところです。

妊娠・分娩中に原因のあるもの

2003年の厚生労働省の統計で見ると、お母さん自身の病気(妊娠高血圧症候群、自己免疫疾患など)を原因とする周産期死亡は36.1%を占めています。また、胎盤・_さい帯・卵膜の異常(常位胎盤早期剥離、前置胎盤、さい帯脱出、さい帯過捻転、さい帯卷絡、前期破水など)が原因として重要な役割を持っているものは26.5%あります。その他分娩の合併症や、胎児の異常によらない胎児低酸素症などが原因と考えられるものは20.7%です。いずれにしても、原因となる異常をできるだけ早く発見して対処すれば減らせる可能性のある部分です。しかし、診断が難しいことと、診断後の病状の悪化が急速なものも多く、システムとしての対応が要求される所です。

前号でも、お産を取り扱う病院を集約化しようという動きがあることをお伝えしましたが、これは、産科医が少ないからだけではなく、このような胎児にとって救急対応を必要とする場合に、お産、蘇生や麻酔の専門家が素早く集まれるような施設での分娩が必要となるためです。

これまでは、専門家個人の身を削る努力によって、妊産婦死亡率や周産期死亡率などの母子保健指標の改善を実現してきたのですが、皮肉なことにそのことが行政的対応を遅らせてしまったきらいがあり、お産を扱うことをやめる産婦人科医が出る事態を招いてしまいました。現在の「産む場所がない」「産科医が足りない」といわれる背景にはこうした実情があるのです。

低体重児の出産が増えている?

一方で、子どもの予後に影響する未熟児出生の増加、高年出産の増加が進行中です。出生体重1.5kg未満の出生数はこの10数年間に実数で28.7%も増加しています。母親が40歳以上の場合の低体重児の出生数は、同じく実数で28.4%増加しているのです。

出生時体重1.5kg未満の低体重児の場合、入院期間が2.5ヶ月以上になるため、未熟児用ベットはいつも満床の状態となり、そのため、低体重児出産の可能性あるハイリスク症例の分娩を引き受けることのできる病院が少なくなることも心配されています。

産婦人科学会と産婦人科医会では、お産をしようという人たちの心配や不安をなくすため、利用者を基点においた「緊急の対策」と「将来計画」が必要だと考えています。

命をつなぐ現場を守りたい

私は、お産をする、人の命を生み出すということ、更にそれを「命をつなぐ人間」として育てるということは、親にとっては命をかけるくらい大変なことであるということなのだと思うようになりました。それを医学の面から支える力を、私たち産科医・助産師は持っています。「お産をする場所がない」「お産を扱わない看板倒れの産婦人科続出」などというあおりに負けずに「命をつなぐ現場を守りたい」と出産に携わる人間は考えています。お産関係者としていちばん大事な、お産をする人とのコミュニケーションを大切にしたいですね。

妊産婦死亡・新生児死亡・周産期死亡の諸外国との比較 表

妊産婦死亡・新生児死亡・周産期死亡の発生する頻度 表

(2006.08)
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