【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

若い妊婦にエイズ予備軍急増への警鐘

  • 2015-06-29 16:05
  • 一般公開
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今回は「しあわせなお産」をしていただきたいからこそ、あえて、このことを取り上げます。

HIV感染妊婦が年199人以上に!

昨年1993年11月25日(火)付けの朝日新聞を見た方は、「HIV感染妊婦の増加~推計、年199人以上/厚労省調査」という五段抜きの大きな見出しに吃驚されたことと思います。

第16回日本性感染症学会に発表された厚生労働省の研究班の発表を元にして作られた記事です。この研究班報告は、1998年から毎年、日本全国のおよそ1679カ所の産科施設に対してHIV抗体陽性妊婦についてのアンケート調査を行なった結果です。その報告をまとめると次のようなものです。

結果の第1

さかのぼっての調査では、1987~1991年まではHIV抗体陽性妊婦の発生は9~3例/年でしたが、その後、1992年の8例から1999年の49例まで毎年5例づつ発生件数が増加していました。しかし、2999年からの3年間は27~31例の発生で、発生件数の増加に歯止めがかかったように見えます。

結果の第2

1995年まではHIV陽性妊婦は大都市(東京、名古屋、大阪、千葉など)に集中していましたが、1996年以後は大都市周辺や中核都市を中心に発生するようになりました。

結果の第3

妊婦のHIV抗体検査の実施率は1999年の73.2%から2992年の85.9%へと増加していますが、地域による差が大きく、妊婦のHIV抗体検査の実施率の最低は32.5%でした。

結果の第4

妊娠中から多剤併用で治療し、帝王切開で分娩すれば、HIVの母から子への感染の危険は39%から1.6%へ下げられることが確認されました。

以上の結果から、この報告が一番いいたかったことは『若い年齢層の妊婦のHIV感染増加の可能性がある』ということ、そしてもう1点は『妊娠中の多剤併用抗HIV療法と帝王切開により、母子感染率を2%以下に抑えることができるので、妊婦のHIV抗体スクリーニング検査実施が有用である』の2点です。

妊婦のHIV検査実施に意味あり

妊婦のHIV抗体スクリーニング検査実施が有用であることの根拠は、HIV陽性妊婦の発生件数はこの3年間は横ばいになっていますが、厚生労働省エイズ動向委員会の報告によれば、日本人のHIV感染者数の増加が続いている、HIV抗体陽性妊婦の発生する場所が全国に拡散し始めている、HIV感染リスクを数倍に高くするクラミジア感染が19~29代女性(特に未婚者)に広がっていること、などです。

調査に参加した1679施設における1999~2992年のHIV陽性妊婦は127例で、この期間のこれら施設の分娩数から計算すると、妊婦19万当たりのHIV陽性妊婦はこの4年間では8~19となります。我が国の年間分娩数118~117万件から推測される年間のHIV陽性妊婦の数は94~117(新聞記事では125)、9.998~9.91%となります。

パートナー間での話し合い

この記事を読んでいる妊婦の方やこれから妊娠したいと考えている方に理解していいただきたいことは、妊娠したということはコンドームを使っていないということで、少なくともクラミジアのような症状の少ない性感染症に感染した可能性があるということです。パートナー間の感染を繰り返さないためにも、性感染症検査を受けることの意味を話し合って欲しいということです。

HIVに関する基礎知識

【HIV抗体陽性者】 HIV感染者:HIV(ヒト免疫不全ヴィルス)の感染を受けたが、まだ症状の現われていない潜伏期にある者。感染源となる。

【AIDS】 HIVの感染を受け、免疫不全その他の症状を示す者。

【HIV/AIDS】 感染者および患者のこと。1981年に最初の患者が報告されてから、HIV/AIDSと共に生きる人の数は世界中で4,000万人。

検査方法

スクリーニング検査に適するHIV抗体検査(PA法、EIA法等)、確認検査(PCR法、Western Blot法等)の2種類がある。HIV抗体検査では偽陽性が高頻度に認められることから、HIV抗体検査陽性例に対しPCR法、Western Blot法などの確認検査が必要となる。

(2004.02)
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