【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

妊娠中の出血

  • 2015-06-29 14:20
  • 一般公開
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妊娠中に色のついた(ベージュ色・薄茶色・赤色・褐色・黒褐色 など)おりものがあると心配になりますね。 このような色のついたおりものは、出血があることを示しています。色が濃いほど出血の量が多いことを示し、黒みが増すほど古い出血ということになります。 なぜ出血するのか、どうしたらよいのかを妊娠週数を追って考えてみましょう。

1)妊娠4週

この時期の出血は月経様出血と言われるように、最終月経と間違えられることもあります。しかし出血の量はいつもより少ないので区別できますし、今は妊娠検査薬で、妊娠であることは確認できます。しかし流産や子宮外妊娠などの心配については、超音波断層法を使ってもまだわかりません。出血の量が増えてこないようなら1~2週経ってから産婦人科で診察を受け、経膣超音波断層法の検査で順調に発育しているのを確認するとよいでしょう。

出血が多くなったり、強い腹痛がある時はすぐに*1受診する必要があります

2)妊娠4~7週

下着につく程度、あるいは月経の始まりか終わり頃の程度の少量の出血が数日続いても、指定された受診日に経膣超音波断層法の検査で発育していることを確認すればよいのです。この時点でまだ検診を受けていないならば一両日中に初診を受けて、検査で胎児の大きさ(頭殿長 CRL*2)が一日に1mmずつ大きくなること、妊娠6~7週には胎児の心拍動が見られるのを確認しましょう。出血の原因は子宮のうっ血・びらん・ポリープなどです。これは妊娠上の心配はいりません。

この時期の持続性の出血は、子宮外妊娠や胞状奇胎が原因で起こることもありますが、超音波検査をくり返していればそれは正常妊娠とは区別できます。指定された検査は受けておいてください。 出血が少なくても発育・心拍動が確認できなければ、残念ながら自然流産になってしまうことが多く、入院や治療によっても改善はされません。それは受精卵または胎児の異常が原因だからです。育っていないことが確認できたら子宮内容除去術を行います。その頻度は10~15%です。 出血が多い時には入院安静をすすめられることもありますが、大切なことは「超音波で胎児の心拍動が認められるか否か」です。 心拍動が認められてからの流産の頻度は2%以下に減少します。

3)妊娠8~16週

この時期になると、出血が見られることは少なくなります。しかし胎盤が完成する妊娠16週までは、胎児を包んでいる袋(胎嚢)の全面に絨毛があることが出血の原因になる場合があり、この時は月経よりちょっと少ない位の量の出血が続きます。その他、ポリープ・びらん・絨毛膜下血腫*3などが原因となります。絨毛膜下血腫の場合には褐色ないし黒褐色のおりものであることがほとんどです。

赤い、あるいは褐色の出血の量が多い時は診察を受けた方がいいでしょう。医師が内診をして、子宮口が閉じていることを確認したり、流産の危険を避けるために入院が必要と判断する場合もあります。出血に、ポリープなど、別の原因がないかどうかも確認します。

4)妊娠16~21週

この時期に生まれてしまうことを後期流産と言います。妊娠21週までは未熟の度合いが強く、保育器でも育てることが不可能だからです。しかし出血・下腹痛などの切迫流産の兆候を止めることができれば、妊娠を継続することができる時期なのです。その他びらん・ポリープ・絨毛膜下血腫などはあまり心配のいらないものです。

色が鮮やかな赤だったり、量がだんだん増えるような場合は診察が必要です。また、下腹痛がある場合には手で下腹に触れてください。もし子宮がボールの様に固くなっている時は、すぐに*1診察を受ける必要があります。その結果流産の心配がある場合には入院安静が必要とされる場合もあります。 一方、低位胎盤あるいは前置胎盤・頚管無力症等の場合は、安静や子宮収縮の抑制・頚管縫縮術等が必要です。それぞれの頻度は1~2%位です。

5)妊娠22週~36週

この時期に生まれるのは全分娩の3~4%で早期産と言います。早く生まれたものほど未熟の程度が強く、育てるのが困難です。 この時期になると出血することは少なくなるはずですが、もし出血がある時は次に述べるような異常な出血の始まりであることもあるので、すぐに*1診察を受けて、危険がないことを確認しておく必要があります。診察の結果、びらん・ポリープが原因と言われたら心配のいらないものです。

持続性の暗赤色の出血で、同時に下腹痛・腹壁の緊張を感じたら常位胎盤早期剥離の可能性があり、診察で胎児の徐脈などが見られることもあります。0.2~0.3%位の頻度です。 前置胎盤の出血は子宮収縮に伴うことがほとんどで、量も多く月経の多い時かそれ以上の出血量になることもあります。最近は妊娠中に行われる超音波検査で胎盤の位置はわかっていることが多いので、突然の大量の出血に驚かされることはほとんどなくなりました。頻度は1%以下でしょう。 粘液に混じった出血がある時は量にかかわらず子宮口が開いている場合が考えられます。

6)妊娠37週以後

分娩準備状態の進み具合を見るために、定期検診の時に内診をすることが多くなります。内診後に出血が見られることがありますが、量が少ない限りは心配はいりません。 陣痛の有無とは関係なしに子宮口が開き始めると、粘液に混じって赤褐色の出血があります。これが血性分泌と言われるものです。「おしるし」とも言われますが、必ずあるものでもなく、また分娩の始まる1週間も前に見られることもあります。本当のお産の始まりは陣痛か破水です。

「おしるし」とはちがって粘液と混ざった血液ではなく、血液だけあるいは血液の固まりが出る時や量が増える時、下腹痛を伴う時などは前置胎盤その他の異常であることもあるので、すぐに*1診察をうけてください。

*1「すぐに」 診療時間外であっても直ちにという意味です。
*2「CRL」 頭殿長、つまり胎児の頭からおしりまでの長さは、超音波写真上のデータではCRL=00mmと表示されてあります。
*3「絨毛膜下血腫」 胎児を包む卵膜の袋は絨毛膜と羊膜からなる二重の袋です。妊娠初期に超音波で見ると卵膜の外側に小さな血腫が見られることがあります。全く問題のないことが多いのですが、褐色ないし黒褐色のおりものが、1週間以上(血腫が消えるまで)続くことがあります。

(1998.12)
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