【ベビカム シニア・アドバイザー】産婦人科医師/ 元愛育病院院長・元東京大学医学部講師

妊娠中の移動手段

  • 2015-06-29 14:15
  • 一般公開
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診察をしていると、妊娠中に自転車に乗っていいか? 車は? バスは? 飛行機は? という質問はしょっちゅうくり返されます。かかりつけ医や周囲の人に「そんなことしていい訳ないだろう」と言われたことはありませんか? 「それじゃあ歩いてもいけないのか? 買い物にも行くなと言うのか?」と言いたくなりますよね。そうカリカリしないで、落ち着いて考えてみましょう。

なぜ問題になるのでしょう

妊娠中だって、仕事を続ける人は多いし、日々の暮らしで出かける必要は出てきます。また遊びの旅行だけでなく、里帰り出産などで交通機関をいろいろ利用することもありますね。では、妊娠中の移動手段が問題になるのはなぜでしょうか?

妊婦さんの心配は「何か異常を起こさないか?」ということではないかと思いますが、考えられることは「おなかが張ってこないか(子宮の収縮が強くなることはないのか)」ということでしょうか。

それぞれの交通手段について

これらの移動手段を使った時に子宮の収縮が強くなるでしょうか?

a)自転車は?

自転車に乗ったら収縮が起こりますか?もし強くなるとしたらなぜでしょうか?自転車をこぐのに下腹に力が入ります。しかし同じ距離を移動するのに歩くのとどちらが楽(からだの負担にならない)でしょうか。買い物をして荷物を持っていたり、3歳の子どもを連れていたりと考えたら自転車の方が楽かなということになりそうです。妊娠30週にもなるとおなかが大きくなるし体重も増えます。でももっと重いお相撲さんだって自転車に乗っている写真を見たことはありませんか。ただ、重心が高くなる(変化する)のは気をつける必要がありそうですね。自分にとってどちらがいいかを考え、選んでください。 今の病院で仕事をしてみて、つくづくと東京の墨田区・江戸川区など、自転車の方が便利なところを目の当たりにして、妊婦さんが自転車を使っていても問題ないことを実感しています。

b)自動車は?

それでは自動車はどうでしょうか? 乗せてもらう時と自分で運転する時ではちょっと違いそうですね。「自動車に乗るのに何が心配ですか?」と聞くと大抵「振動が」という答えが返ってきます。道路がよくなった現在、車に乗っていて強い振動を感じることがあるでしょうか。バスはちょっと別ですが。舗装されていない道や、オフロードはどうかなという気がします。それと、長い時間同じ姿勢を続けることも子宮収縮を起こすようです。子宮の収縮を頻繁にあるいは強く感じるようなら、後ろの座席で横になるくらいの注意は必要です。自分で運転する場合には少し事情が違います。妊娠するとホルモンの影響でしょう、集中力が低下したり反射運動がいつもより鈍るように感じるとはよく言われます。つわりの最中には運転中に気持ちが悪くなったら追突する危険がありますね。子宮が大きくなるとそれが邪魔になってハンドル操作がしづらいということもあるでしょう。また、子宮収縮を感じた時に横になることはできませんね。運転してはいけないというのではありませんが、「妊娠中はこのような変化が起こっているのだ」と心得ておく必要があります。

c)電車、列車は?

駅の階段を昇ったり降りたりはちょっとつらいことです。席に座れたとしてもあまり長時間だとおなかが張るかもしれません。混んでいる時は、おなかを押されて大丈夫かと心配です。通勤時間帯をずらすとか、ゆっくり、ゆっくりを心掛けるとか自分と赤ちゃんを守ることを考えましょう。

d)バスは?

バスはどうでしょうか?席や足まわりが狭いことはちょっと辛いかもしれません。揺れはそれほど問題になることはないでしょうが、吊り革にぶらさがっていて、急停車や高速で曲がった時は、体重が増えた分、よろけやすくなります。極力座席を確保したいものです。混んでいる時は1本見送るとか、始発ターミナルが近くならそちらから乗るという手もあります。

e)飛行機は?

もうだいぶ以前から飛行機の乗り心地はよくなって、離陸の時に耳がおかしくなることはなくなりました。自動車や列車と同じに考えてよさそうです。ただ違うところは乗るまでに別の交通手段を利用しなければならないこと、出発ロビーで少し長く時間を過ごさなければならないことでしょうか。でも、搭乗の時は優先的に入れてくれるでしょう。乗ってしまえばスチュワーデスは妊婦さんや病人に親切です。混んでいなければ、横になる座席も確保してくれるでしょう。

f)その他には?

これだけは避けた方がいいかなと私が考える乗り物はオートバイ・モーターボート・馬などです。バイクは? となると難しくなりますが、あまり飛ばさなければペダルをこがない分、自転車よりいいかなと思います(ただし、これは実験した訳ではありません)。

まとめ

私が以前勤務していた愛育病院は外国籍の妊婦さんが大勢(およそ10%)通院していました。アメリカ・フランス・その他50カ国以上の人たちが、クリスマスやイースターそして夏休みなどで国へ帰ったり、バリ島へ遊びに行ったりします。当然飛行機に乗ります。またアメリカの特に西部では車なしで生活ができないはずです。みなさんもあまり怖がらずに日々の暮らしを送ってほしいと思います。しかし、a)~e)に述べたように妊娠していることによる変化がありますし、早産になっては困ります。担当の医師に診てもらってからだの異常がないことがわかったら、あとは自分でからだの変化に注意して対処することが大切ということになります。

「気をつけて、いってらっしゃい」と誰にも言うではありませんか。

(1998.10)
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