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子どもの臓器移植と法改正

●にわかに活発になった「臓器移植法」の改正論議

ここにきて、国会でにわかに「臓器移植法(臓器の移植に関する法律)」の改正についての議論が活発になってきている。


●法施行後10年以上でも、日本国内での臓器移植手術の件数は81件

日本の現行の「臓器移植法」は、平成9年(1997年)7月に制定されたものである。

それまで、日本の法制度において人の死は「心臓死」と定義されていた。しかし、医療技術の進歩により脳死の人からの臓器提供による移植手術が病気などの治療法の1つとして確立される流れのなかで、脳死患者から臓器を摘出した結果としてその患者が心臓死に至った場合、医師が殺人に問われかねない(→結果的に、日本国内では脳死患者からの臓器提供による臓器移植手術ができない)状況を法的に回避するため、同法は制定された。

ただ、「何をもって人の死とするか」の個人の死生観、生命倫理観などにも関わる問題のため、法制定時にも「脳死は人の死か」で大きな議論となり、本人が生前に臓器提供の意思を文書で示していた場合にのみ、脳死を人の死とするという現行法の内容に落ち着いた。そして、本人の生前の意思表示を条件としたため、民法での遺言可能年齢に合わせて、臓器提供ができるのも15歳以上と規定された。

さらに、日本の現行の臓器移植法は、本人の生前の文書による意思表示に加えて家族の同意も必要とするなど要件が厳しいため、国内での脳死患者からの臓器移植手術の件数は、法施行後10年以上を経過しても1年に10件に満たない合計81件にとどまっている。


●国内では、子どもの臓器移植はほぼ不可能

現行の臓器移植法は臓器提供者を15歳以上に限定しているため、15歳未満の臓器提供者を必要とする移植手術は、日本国内では実施できない。一方、治療として子どもの患者に臓器移植を行う場合、体格の大きな大人の臓器の一部を移植することが可能な場合もあるが、その臓器全体を移植するしか方法がない場合もある。

乳幼児の重い心臓疾患などで、体格が同じくらいの乳幼児からの心臓移植手術しか治療法がない場合は後者に該当するが、日本国内では法律上、乳幼児を臓器提供者とする移植手術は当然ながら行えない。その結果、海外(特にアメリカ)への渡航手術を希望して、募金などで費用を捻出して移植手術を受けるケースが多いのは、みなさんもよくご存じだろう。


●WHO(世界保健機関)の指針で、渡航移植は大幅規制

しかし、世界的に臓器移植医療が盛んになるなかで、海外に渡航して違法な臓器売買で移植手術を受けるケースも後を絶たないため、WHO(世界保健機関)は今年1月、違法な臓器売買抑制を目的に「原則として海外渡航移植を禁止」し「臓器の自国内提供」を定める指針を示しており、この指針は5月のWHO総会で承認される見通しである。

そうなると、発展途上国など自国の医療技術水準が十分でない場合を除いて、渡航移植は原則として認められなくなる。日本はそのような医療技術水準が十分ではない国には該当しないため、日本人が海外に渡って移植手術を受ける機会も、ほぼ閉ざされるだろうと言われている。その結果、日本国内では不可能な、15歳未満の臓器提供者からの臓器移植手術しか治療法のない乳幼児の患者は、そうした治療を受けられる可能性がほぼ消滅する。

臓器移植法は、成立の時点で「施行3年後に見直す」旨の付帯決議もなされていたが、個人の信条や倫理観に影響される要素が大きく、党派で白黒をつけるような法案ではなかったため、本格的な見直し議論はほとんどなされていなかった。しかし、今後渡航移植ができなくなると明らかになってきたため、ここに来てにわかに改正が盛んに論じられるようになった。


●それそれが立場を主張し、相いれない臓器移植法改正案の方向性

現在、臓器移植法の改正案としては、それぞれの立場の議員から、いわゆるA案・B案・C案という3つの改正案が提案されている。

A案は、脳死を一律に人の死とするとともに、(子どもの臓器提供も可能にするため)臓器提供の要件から本人の生前の意思表示をはずし、家族の同意だけで臓器提供をできるようにするという内容である。

A案ならば、欧米各国のように日本国内で乳幼児の臓器移植手術も行えるようになるが、脳死を一律に人の死とすることへの抵抗感、虐待を受けて脳死に至った乳幼児が虐待した親の意思で臓器提供者になってしまう危険性、そもそも乳幼児の脳死判定は大人より難しい等の理由による反対意見がある。

B案は、ほぼ現行の臓器移植法の内容を踏襲しながら、本人の生前の意思表示で臓器提供できる年齢を12歳以上に引き下げるというものだ。この案の支持者は、臓器提供において本人の生前の意思表示は不可欠という立場をとっており、中学生以上なら可能だろうとして年齢を15歳から12歳に引き下げる改正案を示している。この案に対しては、ほとんど臓器移植手術の可能性は広がらない、乳幼児が日本国内で臓器移植手術を受けられない現状の改善にならない等の反対意見がある。

一方、C案は、脳死を人の死とすることや臓器移植に反対の立場から提案されており、現行法の脳死判定の要件をさらに厳しくする内容である。

現状ではA案・B案・C案とも国会で過半数の賛成を得て成立の見込みがなく、かと言ってWHOの渡航移植禁止の指針は、もう間もなく承認される。このため、主にA案とC案を折衷して過半数の賛成が得られそうな第4の案を模索しようという動きもあるが、折衷案に対してもA案・B案・C案それぞれの支持者は原則論を主張して反対しており、臓器移植法改正の方向性は現状では見えていない。


●臓器移植手術は、臓器提供を受ける人もいれば、提供する人もいる

確かに、医療技術のある日本国内で乳幼児の臓器移植手術が受けられないのは、それしか治療法のないお子さんやその家族のことを思えば、何とかならないものかと思う。

しかし、上記A案のように家族の同意だけで乳幼児でも臓器提供ができるようになると、極論すれば「お子さんは脳死と判定されました。臓器提供に同意いただけますか?」と、親が問いかけられる社会になるということだ。

こうしたことも認識して、この問題をみてほしい。


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